この辺では、ほとんどの田んぼで田植えが終わっていた。
5月の中旬。のどかな田園風景である。
田んぼの用水路で、農家のおじさんが何か作業をしていた。
田んぼのあぜ道を行ったり来たりしながら、小さな用水路の中に土嚢袋のようなもので堰を造り、水の流れを止めようとしているようであった。
よく見ると、田んぼのあぜ道の下には細いパイプが通っていて、小さなプレートの蓋を上げると、せき止められた水が田んぼに流れ込むという仕組みになっている。
「おかしいなあ」
小さなつぶやきが聞こえたような気がした。
どうやら用水路の水量が少ないことが、気になっているようである。
上流の方に向かって歩いて行き、しばらく用水路やまわりの様子を眺めていたが、原因がわかったのか戻ってくると、自分の所の土嚢袋を少しだけ動かしているようであった。
おじさんは何を見たのだろうか。そして、何を思ったのだろうか。
それとなく、おじさんが見ていた所に行ってみた。
「あ~なるほど、これだな」
実は、ここでも同じ事がおこなわれていたのだ。
これを見たおじさんは、しばらく待つことにしたのだろう。
田んぼに引く水は、田植えの時期だけではなく、稲作の管理には欠かせない最も大事な水である。
限られた水をどのように使うか。恐らく、関係者の間では、ルールが決められているのではないだろうか。
この付近には何カ所かの水門が設置されている。
決められたルールに従って、開いたり閉じたりしながら水量を調整して、全ての田んぼに公平に分配されているのだろう。
そもそも、ここに流れてくる水は、どこからどのように流れてくるのだろうか。
田んぼの用水路を辿ってみると、どうやら大きなコンクリート製の用水路から引いているようである。農業専用に作られた農業用水路である。
道路の下は暗渠で横断していて、どこまでも続いている。
幅も深さも1.5メートルほどで、しっかりとした造りである。
少し辿ってみると、農業用水路に降りていく階段を見かけた。
フェンスで囲われていて落下防止にはなっているが、階段の所には扉が付いている。
住宅の敷地の裏側を流れる用水路に、何のために降りていくのだろうか。この家の人が、何かの役割を受け持っているのだろうか。しばらくは使われていないように見える。気になる階段である。
農業用水路は、住宅の敷地ぎりぎりの所を流れている。
あるいは、農業用水路ぎりぎりの所に、住宅ができたのかもしれない。
このときの水量は、用水路の大きさからすると、意外と少ないように思われた。田植えが終わっているので、こんなものかもしれない。
水深は数センチメートルぐらいだろうか。水の流れはほとんど感じないくらいなので、わずかな勾配で作られているようである。
こうすることで、少ない高低差で長い距離の用水路ができるように工夫されている。
この用水路は 、住宅の裏側から雑木林の方へまっすぐに続いていた。
これは恐らく、水源は遠いかもしれない。
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