石の上のくぼみに、薄い氷が張っていた。
氷の輪郭はほぼ丸く、まるで土鍋の落とし蓋のように。
正月明けの日曜日。晴れてはいるが寒い日である。
桂島緑地の水面も凍るほどだから、石の上の水も凍るわけだ。
すぐそばの石の上では、苔が緑色の葉を広げていた。
石の上なのでそれほど多くはないが、確かにひとかたまりになって息づいている。雪をかぶっているものもあり、寒さには強そうな植物である。
この苔は、どうやら「エゾスナゴケ」という苔のようだ。写真を見ると、どうもそんな感じである。
スナゴケというように、砂地などの乾燥する場所に生育し、亜高山帯などではアカマツの尾根筋などにも出現し、低地では、平地や斜面に広がって群落を作るため、コケ庭にもよく利用されているそうだ。
エゾスナゴケは、ギボウシゴケ科シモフリゴケ属で、低地から亜高山の日当たりの良い場所に生育するコケ(蘚類)とのことである。
ちなみに、亜高山とは、植物の垂直分布帯の一つで、本州中部では海抜1500~2500メートルぐらいの高さに相当する帯域をいい、主に高木の針葉樹が生育するということである。
水分を含むと葉が広がり緑色になり、乾燥すると葉を上に巻き込んで、白く変色し光を反射する。このように水分状態に対応して植物の形を変えることができる能力が、乾燥しやすい立地における生育を可能にしている要因の一つであると言われている。
厳しい環境であっても、それに対応するために自分を変化させ、最古の昔より生き抜いてきたのだろう。生きるものの中に秘められた、大いなる力を見る思いである。
「エゾスナゴケ」について、以下のサイトを参照 http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/bryophyta/grimmiaceae/ezosunagoke/ezosunagoke.htm
コケ植物は土の層が薄くても生育できることや、強風・乾燥等のストレスに耐性を有する種もあることから,建造物の壁面 や屋上の緑化植物としても注目されているという。
日本大学生物資源科学部の大澤啓志教授が「コラム 緑化植物 ど・こ・ま・で・き・わ・め・る エゾスナゴケ」という論文で、その特徴や利用の可能性について次のように記している。
壁面・屋上緑化でのエゾスナゴケ利用の特徴は,①耐乾性による省管理,②極薄層の生育基盤,に要約される。
①耐乾性は,水分がなくなった時には乾燥・収縮し緑褐色の仮死状態となるが,水分が得られると生命活動を再開し展葉する性質を本種は有している点である。
このため,夜露や雨水の当る場所ならば,灌水等は不要となる。ただし,見た目も重視される場所であれば,定期的な灌水による緑量確保が求められる。
その際,陽光な場での高温時の灌水は,蒸すことによる生育障害を引き起こすので注意が要る。
②薄層生育基盤については,本種は生育に必ずしも土壌を必要としないため, 建造物に大掛かりな生育基盤を設置しなくても緑化が可能な点である。極端には,不織布に本種が張り付いた僅か数 mm 厚の緑化シートをコンクリート面等に張るだけの製品も既に販売されている。
続けて大澤教授は、戸建て住宅での利用についても触れている。
一方,戸建て住宅の屋根を想定した傾斜角別や方位別の生育試験では,角度が増すほど基盤内での水分の偏りが生じて生育が不良になるため,緩傾斜もしくは水平な場所の緑化に適していることや,他の方位と比べて南向きでは生育が劣ることが示されている。
また,本種を用いた建築物緑化での熱環境の緩和効果も報告されている。
このように,本種は緑化植物として都市部で新たな生育空間を獲得しつつある。
今後は,効果や効用のみならず,「苔むした・・・」に象徴される,悠久の時を感じさせる緑化デザインも求められる。
身近にあるこのコケ植物に、このように大きな可能性があるとは驚きである。
緑地の石の上をわずかに覆っているこの植物が、どこかの家の屋根には、もうすでに利用されているかもしれない。
より多くの建物の外壁や屋上に、このコケ植物が利用され普及したら、地球温暖化の抑止に少なからず貢献してほしいものである。
詳細は「コラム 緑化植物 ど・こ・ま・で・き・わ・め・る エゾスナゴケ」大澤啓志(日本大学生物資源科学部)を参照
http://www.jsrt.jp/pdf/dokomade/37-2sunagoke.pdf
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